追悼と献花について
キリスト教式や無宗教式・お別れ会といった葬儀では故人様との別れの儀式として「献花」が行われます。また、近年では、亡くなった方を偲ぶ「追悼式」が一般化している傾向にあります。メディアで芸能人や著名人の訃報に触れた際に追悼という言葉を見聞きすることもあるかと思いますが、追悼の意味やマナーを深く知る機会はそう多くはありません。
今回の記事では、追悼と献花についてを詳しくお伝え致します。
献花について
お葬式で参列者が祭壇や棺に供える花または花を供える行為を献花(けんか)といいます。これには故人を弔いお別れをするという意味合いがあり、親族や参列者が一人一本の花を順番にお悔やみの気持ちを込めて贈る儀式です。
献花は主にキリスト教や無宗教の葬式で行われている儀式ですあり、仏式のお葬式や神道でのお葬式である神葬祭では馴染みがない儀式ですが、仏式の葬儀では焼香・神式の葬儀では玉串奉奠と同じ位置付けになる儀式になります。キリスト教や無宗教葬以外にも社葬やお別れ会などでも献花が行われるケ-スがく、様々な宗旨宗派の方の参列が予想されるという事に加え、会場によっては焼香を禁止している場合もあるといったことへの配慮ともいえます。
また、近年の無宗教葬や社葬・お別れ会では花だけに限らず、より故人様らしい物を献じるといった場合もあるようです。
献花の流れについて
献花は喪主から順に行い、それに続いて孫までの遺族・親族・その他の参列者…という順に関係性の近い人から一人ずつ順番に花を献花台へお供えしていきます。献花の手順は以下でお伝え致します。
- 献花の手順
- 係員から花を受け取り、右手は花の下に添え、左手で茎の根元を上から優しく持つようにしたら胸の高さに合わせて花を持ちます。
- 遺族に一礼し祭壇の方へ進み、祭壇の前で一礼をします。
- 献花台の前で花を時計回りに回転させ、花を自分側に、茎の根元を祭壇側に向けて献花台へお供えします。左手は花を受け取ったときの位置から、茎の中央辺りを下から支える位置に移動させます。
- 黙祷をしてから後ろへ下がり祭壇に一礼、僧侶や神父、遺族にも一礼します。
- 一連の所作を終えたら自分の席へ戻りましょう。
献花も焼香と似た流れで進行すると考えるとわかりやすいでしょう。また、献花では花が自分の方向になるように向きを変えることが多いようですが、場合によっては自分の方に茎を、祭壇・故人の遺影に向けて花を手向けることもあります。前者は献花した花が参列者の方を向いているため、数多くの花が並ぶことで祭壇がより美しくなり、後者は故人に美しい花を向けて喜んでもらうといった考え方があります。いずれの場合にしても、基本的には葬儀社スタッフの指示に従えば問題はありません。喪主や他の人の献花の所作に習いましょう。
献花で使われる花について
献花で使われる花は、会場で準備されている花をお供えします。近年では故人様が生前お好きだった花を献花で用いることもよく見られますが、一般的に献花で多いのはカーネーションやユリ・菊のような茎が長く、花の色が白いものが使われる場合が多いです。特にカーネーションは献花の定番の花であり一輪咲きであり茎が長く、日持ちをすることから非常に献花に適した花であると言えます。また、カーネーションはイエスが十字架にかけられた際、その母である聖母マリアが流した涙の跡に咲いたといういわれから、キリスト教と縁が深い花です。他にも聖母マリアを象徴する花は白いユリでありこちらも献花に使われる定番の花になります。
カーネーションやユリと共に、白い菊も献花で多く用いられています。菊が献花として選ばれる理由には諸説ありますが、花言葉が格調高いという点からという説や日本の仏花である点からなどといった説があります。
追悼について
まず始めに基本的なことにはなりますが、追悼の読み方と意味についてお伝え致します。追悼(ついとう)という言葉が一般的に示す意味は「死者の生前を偲んで、悲しみに浸ること」です。自分と直接的な関係のない方が亡くなった際、過去の活躍に思いを馳せるという経験がある方もいらっしゃるかと思いますが、人生の終着点である死を迎えた方の人生を順序的に追う行為をしながら亡くなった事実を悲しむことが追悼だと言えます。
また、追悼と似たような言葉として「哀悼」という言葉があります。哀悼(あいとう)には「人の死を悲しみ悼むこと」という意味があることからも、亡くなった方の生前の姿を回想するかどうかという細かなニュアンスの違いはありますが追悼と哀悼は細かな区別がされないまま広まっているようです。追悼の場合は亡くなった方の生前の姿を回想しながら死を悼むのに対し、哀悼は死亡の事実を悲しむ感情的なものであると覚えておくと良いでしょう。具体的な追悼と哀悼の使い分け方については、言葉を発する本人が焦点を当てている部分によって変わります。例えば追悼式と呼ばれる式典は存在していても、哀悼式という式典は存在しません。追悼式は、亡くなった方の生前の姿に思いを馳せる行為が公の場などで形となることで、亡くなった方の死を個人個人が同じ場所で悲しむと同時に周囲に自分の悲しみや思い出を発信・共有する行動が含まれると言えるでしょう。亡くなった方の死に際し弔電文などで「哀悼の意を表します」という表現が使われます。哀悼の意を表すというのは、亡くなった方を悲しむ気持ちを示す表現です。追悼の意と言わない理由には「感情なのか行動なのか・悲しみを分かち合い共有するかしないか」が関係していると言っても良いでしょう。また、哀悼の意を表すという言葉は本来、文語表現であり話し言葉ではないところにも違いがあります。挨拶などでうっかり使用すると表面上だけ丁寧に見えて実は横柄さがにじみ出てしまう「慇懃無礼」と思われかねませんので注意しましょう。慰霊は何らかの理由で亡くなった動物たちにも使えるため、覚えておくと役立ちます。
哀悼の他にも慰霊(いれい)という言葉も亡くなった方を悲しむ意味として使われていますが追悼とどのような違いがあるのでしょうか。追悼と慰霊はそれが悲しみであるのか無念を慰めることなのかという意味合いによって使い分けをします。慰霊は死者の魂を慰めることでこの場合の慰めるという漢字の意味はなだめ鎮めるが該当し、戦争や災害・事故など特定の原因によって亡くなった大勢の人たちの無念の気持ちをなだめ鎮めるという意味で使われる傾向にあります。
追悼文について
誰かが亡くなった際に自分の気持ちを届けるために追悼文を送ろうと思う機会があるかもしれません。近年ではSNSを通して亡くなった著名人に対しても気軽に追悼文を書けるようになりました。追悼文を送る際はマナーや言葉遣いなどに気を配ることで受け取った故人の近親者も安心して亡くなった方へ言葉をかけられるでしょう。追悼文には亡くなった方だけでなく、遺族への気遣いやねぎらいの言葉を添えるのが一般的です。亡くなった方と忘れられない思い出がある場合はその時の出来事を回想しながら言葉を添えることもあります。何らかの理由で葬儀に参加できなかった場合は、お詫びの気持ちも添えるとより丁寧です。
追悼文を書く際は心を込めて書くのが何よりも大切なこととなりますが、気持ちを込めることに焦点を当てすぎてマナー違反の文面とならないように気をつけなければなりません。文章作成時に気をつけたい点としては、前略など前文や結びの言葉は省略する・伝わりやすい文章にする・香典を添える場合は香典を封入している旨にも触れる・句読点は避ける・忌み言葉は使わないなど、葬儀や告別式の弔電や挨拶などと通じるマナーが挙げられます。
追悼式について
葬儀・告別式の後に亡くなった方と縁が深い人たちが有志となり追悼式を開く場合があります。近年では葬儀の縮小化に伴い、芸能界の方々のみならず一般の個人の方でも追悼式を執り行うケースがあるため、何らかのきっかけで追悼式に参列することになる機会もあるかもしれません。追悼式についての知識をあらかじめ蓄えておくことで、急な参列となった場合でも対応しやすくなるでしょう。それでは追悼式についてお伝え致します。追悼式とは亡くなった方の死に際し自分の悲しみをセレモニーと結びつけ悲しみを発信する行動を指します。日本においては「偲ぶ会」も追悼式の一種と考えて差し支えないでしょう。亡くなった方をお見送りする式は追悼式以外にも葬儀や告別式・お別れ会と多岐にわたります。それぞれの意味や違いをみていきましょう。
- 追悼式
- 故人の死に対する悲しみと思い出を共有する場
- 遺族に限らず友人などが主催となる場合もある
- 公的なものから個人的な物まで様々
- 火葬後に行われる
- 時期や回数を選ばない
- 葬儀
- 故人の死から火葬までの式次第のひとつ
- 宗教性と儀式性がある
- 告別式と同時進行であることが多い
- 亡くなってから1回限り
- 告別式
- 故人の死から火葬までの式次第のひとつ
- 本来は宗教性を入れないが儀式的に送り出す
- 亡くなってから1回限り
- 葬儀とまとめて執り行うことが多い
- お別れ会
- 定義がない
- 遺族に限らず友人が行う場合もある
- 本来は宗教性を入れないが儀式的に送り出す
- 個人と個人や集団と個人の関係性が強い
- 亡くなってから1回限り
追悼式とお別れ会は一見すると似たようなものに思えるかもしれませんが、追悼式は一回に限らず10年・20年経っても亡くなった方を偲ぶ気持ちが変わることはありません。葬儀や告別式・お別れ会は故人の旅立ちに際して宗教性を持つかどうかや故人と別れを告げるという意味合い上一度きりです。ですから、追悼式は回数や時期を選ばないという点がお別れ会との大きな違いと言えるでしょう。
続いて追悼式の服装についても併せてお伝え致します。追悼式は葬儀等のように形式的な式典ではないため、参列する際は喪服でなく平服でも問題ありません。男性の場合であれば、黒基調またはダークカラーのスーツに白いシャツで黒かダークグレーのネクタイ・黒い靴を着用し、女性の場合であれば黒基調のスーツやワンピースに黒の透けないストッキング・黒のつま先の丸い靴を着用するのが好ましいです。追悼式は平服でも問題ないとはいえ、亡くなった方のために集まるものですから最低限のマナーは守らなければなりません。追悼式で避けるべき服装はジーンズなどカジュアルすぎる服装や派手な格好、露出の多い服装や殺生をイメージする素材などが挙げられます。女性の場合は葬儀の場と同様にメイクにも気を配らなければなりません。派手な色味やラメやパールの入った化粧品の使用は避けましょう。
追悼の意を込めて追悼式でお花を送る場合には、亡くなった方へ捧げる献花と、追悼式会場に飾る供花の二種類を覚えておくと良いでしょう。献花であれば色は白のみでカーネーションや菊が好まれます。供花の場合は白だけでなく淡い黄色や紫なども可能で菊や百合・胡蝶蘭が好まれる傾向にあります。追悼式は葬儀・告別式と異なり宗教性が薄いですから亡くなった方が生前好きだったお花を贈ることもできます。心配な方は追悼式に赴く前に式を取り仕切る葬儀社や遺族・主催者などに相談してみましょう。
また、追悼式や追悼イベントで多く用いられるのがろうそくやキャンドルです。ろうそくやキャンドルは供養の意味だけでなく、亡くなった方の新たな旅路を明るく道を照らしこの世から見送るという意味が含まれていることから、儀式性や宗教性にとらわれない追悼式で取り入れられる傾向があります。火を灯したろうそくには、道中の不浄を燃やして周りを清らかにする力があるとされていることも覚えておくと良いでしょう。